冠奨学金は、個人・家族・企業などの名前や想いを冠した奨学金です。既存の大学や財団の制度を利用すれば、自分で新しい法人を設立せずにつくれます。 公益財団法人ガクシー財団では、学生への給付原資50万円から、別途運営費は基本15%で設立を相談できます。受け入れ先ごとに支えられる学生や期間、任せられる事務が異なるため、費用の内訳までそろえて比較します。この記事では、大学・財団6つの条件と、予算の組み方、設立から給付までの流れを紹介します。 冠奨学金はどこでつくれる?受け入れ先と費用を比較 母校の学生を支えたいなら大学の冠制度、留学を支えたいなら留学支援の制度が候補です。大学を限定せず、分野や地域への希望を反映したい場合は、財団などの窓口で制度設計を相談できます。 受け入れ先 | 支えられる対象・利用する寄付者 | 寄付額・運営費 | 関東学院大学 | 同大学の学生。個人・団体等が学部や出身県などを相談 | 1口10万円以上。1口未満や冠名なしの寄付は共通名称にまとめる | LSHアジア奨学会 | 語学留学生を支えたい企業・団体 | 一人12万円。学生への給付10万円+選抜事務コスト2万円 | 埼玉県国際交流協会 | 埼玉から海外へ留学する日本人学生を支える個人・企業 | 一人に年50万円を給付する場合、初年度は事務費5万円を加え計55万円。学位取得を条件とする場合は給付年120万円以上 | 日本著作権育英財団「じぶん奨学金」 | 中学生・高校生を3年間支えたい個人・企業等 | 一口130万円。学生への給付118万円+募集・選考・送金・報告等の運営事務費12万円。寄付の税制優遇はなし(同財団の案内) | 東京理科大学 | 同大学の学生を支えたい同窓生・教職員・篤志家 | 1口300万円を一括寄付し、使途を冠奨学金に指定。一口当たり年一人へ30万円、給付期間10年間 | 公益財団法人ガクシー財団 | 分野・地域・将来の目標などを反映した制度をつくりたい個人・企業 | 給付原資50万円から、運営費は基本15%。規模に応じて調整し、1,000万円規模では10%が目安 | ※ 横幅のある表は、スマートフォンでは左右に動かして読めます。 母校の学生を支えたいなら大学の制度、一人を3年間継続して支えたいなら「じぶん奨学金」、分野や地域から対象を設計したいなら財団の制度が候補です。 たとえば、LSHの12万円の制度は、語学留学生を支える企業・団体向けです。費用だけで選ぶと、支えたい学生と制度が合わないことがあります。 表の金額はそれぞれ別の制度の条件です。「1口の寄付額」と「学生一人への給付額」、「一年分の費用」と「複数年の原資」を区別してください。 出典:上表の各団体公式案内、日本著作権育英財団の奨学金概要(2026年10月18日確認)。 冠奨学金と一般の寄付・財団設立の違い すでにある奨学金の対象や方針に共感し、その活動を支えたいなら一般の寄付が合います。既存の基金を指定できれば、新しい制度をつくらなくても希望の使途へ届けられます。 一方、個人や会社の名前を付けたい、地域・専攻などの条件から決めたい場合には冠奨学金が向いています。受け入れ先と名称・給付額・人数・期間などを決め、独立した制度として運営します。 自分で財団を設立する方法と、既存の団体に冠奨学金を設ける方法は別です。既存の大学や財団を利用する場合、募集・選考・給付などを任せられる制度があります。自分で組織を運営することを希望していなければ、この方法から検討できます。 埼玉大学では名称や給付額、対象学部・人数などを相談でき、JEESも企業・団体・個人からの寄付で冠奨学金を設ける制度を案内しています。条件を任せる部分と自分で決めたい部分を分けると、適した受け入れ先が見つかります。 出典:埼玉大学「冠奨学金基金」、JEES「冠奨学金」 冠奨学金の設立費用はいくら?原資・運営費・期間 設立費用を見るときは、学生に渡るお金と、制度を運営する費用を分けます。さらに、一回の給付で終えるのか、同じ学生を数年間支えるのか、毎年新しい学生を採用するのかで必要額が変わります。 ガクシー財団は、給付原資50万円から+運営費 当財団では、学生への給付原資50万円から冠奨学金を設けられます。運営費は基本15%で、奨学金の規模が大きい場合は料率を調整し、1,000万円規模では10%を目安としています。 総予算を考えるため、給付原資に運営費率を掛けて加える場合の計算を示します。 学生への給付原資 + 制度を運営する費用 給付原資50万円・運営費15%の例 給付原資 50万円運営費 7.5万円合計 57万5,000円 給付原資1,000万円・運営費10%の例 給付原資 1,000万円運営費 100万円合計 1,100万円 給付原資×運営費率を加えた計算例。料率は基本15%、規模に応じて調整します。1,000万円の10%は目安であり、適用条件は個別の見積もりで確認します。 運営費の支払先、寄付金受領証の対象になる範囲、消費税の扱いと個別の実費の有無は、見積もり時に確認します。毎年この金額が必要という意味ではなく、給付回数・人数・期間に応じて原資を決めます。一般寄付の1,000円からという受付条件とは異なります。 基本の運営費には、奨学生の募集・選考、奨学金の送金、寄付者への報告が含まれます。 当財団の受付条件は2026年10月18日現在のものです。具体的な給付日程や報告方法は、制度設計の際に決めます。 他の制度も、給付額・運営費・期間をそろえて比べる 埼玉県国際交流協会の制度では、学生一人に年50万円を給付する場合、初年度の事務費5万円を含む55万円が必要です。同じ学生に2年目以降も給付する場合、事務費は年2万円とされています。 日本著作権育英財団の「じぶん奨学金」は、一口130万円で、入学準備金10万円と月3万円を36か月分、計118万円を一人に届ける設計です。残る12万円には募集・選考・送金・学期ごとの報告などの事務費が含まれます。同財団は、寄付について税制上の優遇はないと案内しています。 制度によって運営費の決め方や含まれる業務が異なるため、料率だけで比べることはできません。何人を、何年間、募集から報告までのどこを任せて支える金額かをそろえて見ます。埼玉県国際交流協会では、一年分の必要額を寄付する方法と、複数年分を一括で託す方法も選べます。 出典:埼玉県国際交流協会「冠奨学金設立のご案内」、日本著作権育英財団「じぶん奨学金」 原資そのものを給付に使う方式と、原資を残して利息を使う方式もあり、早稲田大学は両方を案内しています。長期間続けたい場合は、希望する年間給付額をどちらの方法で確保するかも検討します。 出典:早稲田大学「奨学金」 毎年採用する場合は、継続生の給付も積み上がる たとえば「毎年10人を採用し、一人に年10万円を3年間給付する」設計を考えます。新規採用を3年間で終える場合でも、最後に採用した学生への給付は5年目まで続きます。 採用は3年間、給付は5年目まで 毎年10人を採用し、一人に年10万円を3年間給付する例。新規採用は3年間で終了。 採用年1年目2年目3年目4年目5年目1年目10人採用100万円100万円100万円——2年目10人採用—100万円100万円100万円—3年目10人採用——100万円100万円100万円年間計100万円200万円300万円200万円100万円← 左右に動かして5年分を見る → 5年間の給付原資 900万円 運営費は別途。3年間で計30人を採用し、それぞれ3年間支えます。 これは運営費・税・運用収益を含まない仮の計算です。給付原資は「年10万円×10人×3年間×3期=900万円」となります。募集を終える時期と、学生への給付が終わる時期は分けて考える必要があります。 総予算が決まっている場合は、採用人数・一人当たりの給付額・支援期間のどれを優先するかを決めると、無理のない設計に近づきます。 対象・選考・運営で決めること 名称と予算に加え、誰をどう選び、どのように支え続けるかを決めます。相談時には、次の項目を受け入れ先と整理してください。 項目 | 決める内容 | 名称と公開範囲 | 個人名・家族名・企業名・想いを表す名前など。寄付者名をどこまで公開するか | 支える学生 | 課程・専攻・地域・家計・将来の目標など。必須の条件と希望を分ける | 選考 | 応募要件、選考基準、寄付者が関わる範囲、ほかの奨学金との併用 | 運営分担 | 募集要項作成、応募受付、選考、送金、学生からの問い合わせ対応 | 報告・変更・終了 | 給付状況や近況の報告、休学等の扱い、採用者がいない場合や残金の扱い | 名前・希望条件・選考への参加は、どこまで決められる? 名称には、本人・家族・企業の名前のほか、支援したい目的や記念の言葉を使える制度があります。「じぶん奨学金」は社名や商品名、記念の出来事による命名にも対応しています。埼玉県国際交流協会では、個人名を出さず、支援目的を表す名称も選べます。 「地元出身の学生を支えたい」「理工系の研究を応援したい」といった条件を指定することと、特定の学生を指名することは別です。関東学院大学は、特定個人への給付を条件にすることや、寄付者が学生の将来を拘束することを認めていません。 図で見る寄付者が選考に関わる範囲も比べる じぶん奨学金選抜会議に参加できる最終決定は財団と案内。寄付者が関わる範囲は申込時に確認します。 埼玉県国際交流協会協会が選考・採用決定寄付者が担う役割とは分かれています。 選考への参加を希望する方は、制度を選ぶ段階で違いを確認してください。 出典:関東学院大学「冠奨学金募金について」、日本著作権育英財団「じぶん奨学金」、埼玉県国際交流協会 事務を任せられる範囲も具体的に決める 埼玉県国際交流協会では、協会が募集から給付までを担い、寄付者が学生との交流に参加するかは任意です。「じぶん奨学金」では、学期ごとに学生の近況を伝える手紙が届きます。運営を任せることと、支援後の様子を知ることは両立できます。 埼玉県国際交流協会は、剰余金を基金の原資に活用し、寄付後の返金には応じないと案内しています。ほかの受け入れ先も同じとは限らないため、支給が始まる前に、変更や終了時の条件まで合意しておきます。 出典:埼玉県国際交流協会「冠奨学金設立のご案内」、日本著作権育英財団「じぶん奨学金」 企業は、どのように取り組みを伝えられる? 企業名の付いた奨学金は、どのような人材や学びを応援しているかを具体的に伝える方法になります。LSHアジア奨学会は、授与式での法人名発表、代表者からの直接授与、機関誌への掲載、希望に応じたWeb掲載を案内しています。 ただし、企業を知ってもらう機会と、学生の採用を約束してもらうことは別です。卒業後の就職条件を付ける場合は、受け入れ先が認める制度かどうかを、募集前に確認する必要があります。 出典:LSHアジア奨学会「冠奨学金による寄付」、関東学院大学「冠奨学金募金について」 冠奨学金の設立手順と、給付開始までの期間 冠奨学金の所要期間は、受け入れ先や希望する条件によって異なります。具体例として、埼玉大学は制度設計・募集要項作成におおよそ2〜3か月を要すると案内しています。これは給付開始までの全期間ではなく、その後に寄付の手続きや学生の募集が続きます。 相談では、次の順で予定を整理すると進めやすくなります。 支援の希望を伝える:対象、名称、総予算、始めたい時期を相談する。 条件と分担を決める:給付額・人数・期間、運営費、募集・選考・報告の担当を決める。 書面で確認する:募集要項と、変更・中止・残金などの扱いを確認する。 寄付と募集を進める:合意した手順で寄付し、学生の募集・選考を行う。 給付・報告を行う:支給状況や学生の近況を確認し、次年度の運営を相談する。 「来年4月から支援したい」場合は、4月の初回給付に間に合うよう、募集・選考・要項作成をいつまでに終える必要があるかを受け入れ先へ尋ねてください。希望月だけでなく、学年や進学時期に合わせて計画できます。 出典:埼玉大学「冠奨学金基金」 冠奨学金の設立事例:理工系大学院生への支援 2026年10月に募集を開始し、2027年4月末頃から給付を予定する制度を紹介します。研究分野に加え、選考と報告の設計にも寄付者の目的を反映した例です。 ガクシー財団の理工系大学院生向け奨学金は、社会課題の解決につながる研究を応援したいという寄付者の想いから設けられました。研究テーマに関する小論文とプレゼンテーションで選考し、給付開始から約12か月後にも研究の進捗を発表してもらう設計です。 図で見る理工系大学院生向け奨学金の募集・給付予定 2026年10〜12月募集対象・応募要件に沿って受け付ける 2027年1〜2月選考1月下旬頃に書類選考、2月にプレゼンテーション 2027年3〜4月採用・給付3月に結果通知、4月末頃に初回給付を予定 一人総額60万円を2回に分け、約10人を採用予定。給付額は設立総費用ではなく、この予定は冠奨学金一般の設立所要期間でもありません。 このように、支えたい対象に加え、「どのように選び、何を報告してもらうか」まで決めることで、目的に沿った制度になります。 学生が応募の準備をする時間も含め、給付日から逆算して設計することが大切です。 当財団が寄付金の受け入れ・管理を担い、株式会社ガクシーが運営実務を支えています。分野・地域・将来の目標などへの希望を伺い、募集・選考を含む制度設計をご相談いただけます。 出典:ガクシー財団の理工系大学院生向け奨学金・募集要項、株式会社ガクシーの奨学金創設・運営の案内、財団の寄付案内 相談の前には、「支えたい学生」「運営費を含む総予算」「始めたい時期」「任せたい事務」の4点をメモすると話を進めやすくなります。たとえば「地元の理工系学生を支えたい。給付原資は50万円を考えている。次の春に始めたい。選考と送金は任せ、研究の報告を受けたい」という伝え方で十分です。条件をすべて決めてから相談する必要はありません。 設立をお考えの方は、冠奨学金の相談窓口をご利用ください。既存の奨学金への寄付から検討したい方は、奨学金の寄付先と選び方をご覧ください。 冠奨学金のよくある質問 Q. 個人でも、自分の名前の奨学金をつくれますか? 個人から受け付ける制度があります。関東学院大学や東京理科大学は、個人名を付けた冠奨学金を案内しています。一方、LSHアジア奨学会の冠奨学金は企業・団体向けです。申し込む制度の対象者も確認してください。 出典:関東学院大学、東京理科大学、LSHアジア奨学会 Q. 企業が社員の奨学金返還を支える制度とは違いますか? 違います。この記事で扱う冠奨学金は、学生を募集・選考し、学びを支える制度です。JASSOの「企業等の奨学金返還支援(代理返還)」は、すでに借りた奨学金の返還額を、企業が従業員に代わってJASSOへ送金する制度です。社員の福利厚生を目的とする場合は、後者を検討します。 出典:JASSO「企業等の奨学金返還支援(代理返還)制度」 Q. 冠奨学金なら、必ず寄付金控除を受けられますか? 名称では決まりません。個人の所得税では、受け入れ先や寄付の内容によって適用が異なり、所得控除と税額控除でも要件が違います。例えば、日本著作権育英財団の「じぶん奨学金」は、個人の寄付金控除の対象外と案内されています。公益財団法人への寄付も、すべて税額控除になるわけではありません。制度と必要書類は寄付金控除の解説で説明しています。 法人の寄付は、個人の所得税の控除とは別の仕組みです。国立大学法人への指定寄附金などは原則として全額を損金に算入できます。特定公益増進法人の主たる目的である業務に関連する寄付は、一定の限度額まで一般の寄付金とは別枠で損金に算入できます。それ以外の一般寄付は一般枠の限度額までとなるため、受け入れ先の税制上の区分も確認します。寄付による節税の解説で、法人の限度額も計算例とともに説明しています。 出典:国税庁「一定の寄附金を支払ったとき」、国税庁「公益社団法人等に寄附をしたとき」、国税庁「特定公益増進法人に対する寄附金」、国税庁「寄附金の範囲と損金不算入額の計算」 Q. 遺贈によって奨学金を残すことも相談できますか? 遺贈を受け付ける大学や財団で相談できます。ガクシー財団でも相談を受け付けていますが、財産の種類や額、受け入れの可否、遺言の内容を整理する必要があります。遺贈寄付の準備を確認し、遺言の作成は専門家とも相談してください。 出典:埼玉大学「冠奨学金基金」、ガクシー財団「ご寄付について」